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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)5752号 判決 1999年1月26日

大阪府羽曳野市駒ヶ谷一〇二七番地

原告

株式会社河内ワイン

右代表者代表取締役

金銅一

右訴訟代理人弁護士

高澤嘉昭

中塚賀晴

榮川和広

右補佐人弁理士

杉本勝徳

松原敦

大阪府羽曳野市飛鳥一一〇四番地

被告

飛鳥ワイン株式会社

右代表者代表取締役

仲村裕三

右訴訟代理人弁護士

三山俊司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、その販売する酒類の容器に「河内ワイン」の商標を付した包装を使用してはならない。

二  被告は、右商標を付した包装を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金二七〇〇万円及びこれに対する平成九年七月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、別紙第一及び第二目録記載の商標につき商標権を有する原告が、包装容器に「河内ワイン」の標章を付したワインを製造、販売する被告に対し、商標権及び不正競争防止法二条一項一号、二号に基づき、その包装の使用差止め、廃棄を求めるとともに、損害賠償を請求している事案である。

二  前提的事実(証拠の掲記がない事実は争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、原告代表者の父金銅徳一が昭和五年ころから金徳屋洋酒醸造元の屋号で行っていたワインの製造、販売事業を、平成八年一一月一日に法人化して設立された会社である(弁論の全趣旨)。

(二) 被告は、ワインの製造、販売を業とする会社である。

2  原告の有する商標権

(一) 原告代表者金銅一は、次の各商標権(以下、(1)の商標権を「本件第一商標権」、その登録商標を「本件第一商標」と、(2)の商標権を「本件第二商標権」、その登録商標を「本件第二商標」という。また、両商標権を併せて「本件商標権」といい、その登録商標を併せて「本件登録商標」という。)を有していた。

(1) 出願日 昭和五三年七月五日(商願昭五三-五〇一八九)

公告日 平成二年四月四日(商標出願公告平二-二三〇〇二)

登録日 平成三年四月三〇日

登録番号 第二三〇五四一八号

商品の区分 旧第二八類

指定商品 ぶどう酒

商標の構成 別紙第一目録記載のとおり

(2) 出願日 平成二年六月一三日(商願平二-六七三三三)

公告日 平成八年九月二七日(商標出願公告平八-一〇九五〇二)

登録日 平成九年五月二三日

登録番号 第二七二一五六九号

商品の区分 旧第二八類

指定商品 ぶどう酒

商標の構成 別紙第二目録記載のとおり

(二) 原告は、平成九年九月一日、金銅一より本件商標権を譲り受け、同年一一月一七日、その旨の登録を了した(甲第五ないし七号証)。

3  被告の行為

被告は、包装容器に別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付したワインを製造、販売している(検甲第二号証、弁論の全趣旨)。

4  本件商標権に基づく損害賠償請求権の譲渡

原告は、平成九年一二月九日、金銅一の被告に対する本件商標権侵害に基づく損害賠償請求権を譲り受け、金銅一から被告に対し、同日付をもって確定日付のある債権譲渡の通知がされた(甲第一〇号証)。

第三  争点

一  商標権に基づく請求

1  被告標章は本件登録商標と類似するか。

2  「河内ワイン」は普通名称あるいは慣用表示か。

3  原告が本件商標権に基づいて差止請求権を行使することは、権利濫用に当たるか。

二  不正競争防止法に基づく請求

1  本件登録商標は原告の商品等表示として著名あるいは周知といえるか。

2  被告標章は本件登録商標と誤認混同を生じるか。

三  損害

被告が損害賠償責任を負うとした場合、その額

第四  争点に関する当事者の主張

一  争点一(商標権に基づく請求)について

1  争点一1(類似)について

【原告の主張】

(一) 本件商標権は、金徳屋洋酒醸造元及び原告が使用を継続して特別顕著性が生じたことにより、商標法三条二項に基づいて登録されたものであるから、「河内ワイン」という文字自体が本来的に自他商品識別機能を有するかどうかは問題とならない。そして、本件商標権の登録手続では、本件登録商標を付した取引先の証明書のほか、活字のみの商標を掲載した新聞、雑誌等の記事を証拠として「使用」が認められたのであるから、活字を縦書きや横書きにしたものについても使用が認められたものというべきである。

したがって、本件商標権の効力は「河内ワイン」の文字すべてに及ぶ。

(二) 本件第一商標は、山の図形を背景に、やや図案化された漢字二文字の「河内」を中央に縦書きにし、その下に普通の書体の片仮名三文字の「ワイン」を比較的小さく横書きにした構成からなる。

これに対し、被告標章は、(1)山の図形がなく、(2)「河内」の書体が普通の活字体であって図案化されておらず、(3)「河内」の文字が横書きで、(4)「河内」の文字と「ワイン」の文字の大きさが同一である点で本件第一商標と異なるが、(5)「河内ワイン」の五文字を使用しており、(6)「河内」の文字が漢字であり、(7)「ワイン」の部分が片仮名である点で共通している。

そこで、本件第一商標と被告標章を比較すると、本件第一商標の山の図形のデザイン、「河内」の文字の図案化、「河内」の文字の縦書きはいずれも平凡なものであるから商標の要部ではなく、また、文字の大きさの些細な差異は類似性の判断において考慮すべきではないから、両者は類似するというべきである。

(三) 本件第二商標は、本件第一商標の背景の山の図形がないものであるが、(二)で述べたところと同様の理由から、被告標章と本件第二商標は類似するというべきである。

(四) 被告は、本件商標権は無効原因を有すると主張し、本件登録商標と被告標章との類似につき、図柄や構成そのものの一致を要することを前提としているが、本件商標権が有効に存在する以上、権利範囲を限定して解釈する理由はない。商標法三条二項の適用要件たる特別顕著性は登録査定時に具備していることで足りるから、仮に第三者が本件登録商標に類似する標章を指定商品に短期間、限定的に使用したとしても、本件登録商標の登録査定時にその使用が継続され、かつ、需要者が本件登録商標を原告のものと認識できない状態になっていない限り、本件商標権の効力に何ら影響はない。被告の主張する事実は、第三者がある時期ないし短期間に、特定の場所で、「河内ワイン」の文字標章を使用したらしいという事実しか認められないから理由がない。

特に、本件第一商標と本件第二商標は、山の図形に関係なく、「河内ワイン」の文字が共通することにより連合商標として登録されたのであるから、「河内ワイン」の文字が共通し、称呼が同一の本件登録商標と被告標章の類似性を否定することはできない。

【被告の主張】

(一) 河内地域は、ぶどうの産地として知られており、古くから地域ぐるみでぶどう酒の普及に努め、「河内柏原ワイン」などの表示・呼称が、一般名称、普通名称として使用されてきた。「河内ワイン」なる標章は、ぶどうあるいはワインの産地である「河内」と、その商品の名称である「ワイン」とを結合させた、普通に使われている表示態様であり、需要者は、この表示から、「河内産のぶどうで作られたワイン」あるいは「河内地方で製造されたワイン」という漠然としたイメージを持つにすぎず、それを超えて原告の製造にかかるワインであると特に認識することは考えられない。

(二) 「河内ワイン」という名称のワインは、昭和五三年三月に大阪の中座において同名の芝居が上演された際に、カタシモワインフード株式会社(大阪府柏原市)が「河内ワイン」の表示名をつけたワインを販売したことに始まる。その後、同年三月から五月にかけて、大阪府羽曳野市産業課からの提案により、同市内のワイン製造業者三社(被告、蝶矢洋酒醸造株式会社、金徳屋洋酒醸造元)が話し合いを行い、地ワインに「河内ワイン」の産地名を冠して販売することになったのである。

河内地方のワイン業者は五社すべてが最近まで「河内」を冠した商品名でワインを製造、販売してきた。前記のとおり、カタシモワインフード株式会社は、金徳屋洋酒醸造元に先立つ昭和五三年三月から「河内ワイン」の表示で地ワインの販売を開始しており、平成九年六月に「KING SELBY\河内ワイン」が商標登録されている。また、蝶矢洋酒醸造株式会社は、昭和五三年八月ころから地ワインとして「河内ワイン」の販売を開始し、販売開始当時は原告の一〇倍以上の売り上げがあったし、七二〇ミリリットル入りのワインについては、今日まで「河内ワイン」の表示名を使用している。被告は、昭和五三年九月から「河内飛鳥ワイン」の商品名でワインを販売し、平成二年三月から「河内ワイン」に表示名を変更して地ワインの販売を継続した。株式会社神田屋(大阪府八尾市)は、昭和六〇年ころより「河内産ワイン」の表示名でワインの販売を開始しており、最近まで同表示名を使用したワインを製造、販売していた。

このように、本件商標権の登録当時には、河内地域に所在するすべてのワイン業者が河内地域の地ワインとして「河内ワイン」あるいは「河内産ワイン」なる表示でワインを製造、販売しており、これまでにも河内地域の右各ワイン業者の「河内ワイン」表示名のワインが雑誌等に並列して紹介され、新聞や雑誌等の記事においても「河内ワイン」を河内産のワインを指すものとして取り扱っている。

(三)(1) 本件第一商標は、前記(二)で述べた羽曳野市の呼びかけの中、金銅一により抜け駆け的に出願されたものであり、一旦拒絶査定された後、審判により使用による特別顕著性が認められて登録となったものである。

金銅一は、拒絶理由通知に対する意見書において、<1>相当以前(昭和四八年当時)から「河内ワイン」商標を使用していた、<2>本件第一商標を容器に貼付して多量製造販売している、<3>蝶矢洋酒醸造株式会社の商品は、金徳屋洋酒醸造元が使用許諾したものである、などと主張しているが、<1><3>はいずれも虚偽であり、<2>についても何ら立証がされていない。また、審判における審判請求書補充書において、<1>「河内ワイン」は金銅一のみが生産するワインで、他の業者で「河内ワイン」をブランドとしている者が皆無であることから、「河内ワイン」の出所は明らかに金銅一であることが認識される、<2>著名デパートでの各銘柄別ワインの売り上げベストテンの中で、松坂屋では八位にランキングされている、<3>関西の主要な酒店から集めた証明書では、「河内ワイン」を金徳屋洋酒醸造元(金銅一)の商品であると認めている、などと主張しているが、<1>は虚偽であり、<2>も金徳屋洋酒醸造元以外が製造、販売している「河内ワイン」が含まれている可能性があり、<3>は金徳屋洋酒醸造元と取引関係にあるなど、特別の関係がある者から集められた証明書であると推認される。

(2) また、本件第二商標も、一旦拒絶査定された後、審判により商標法三条二項が適用されて登録となったものであるが、その際に提出された証拠は、本件第一商標権の出願経過の中で出された資料とほぼ同一である。

(3) このように、本件商標権は、周知性の有無、程度について、登録手続において特許庁が必ずしも現場の取引事情に明るいわけではなく、その審査能力に限界があるという状況に乗じて、明らかな虚偽事実をもって登録を取得したものである。このような本件商標権は、無効原因を有するというべきであって、その権利範囲は極めて厳格に解釈されるべきであり、本件登録商標と同一か、それに酷似する範囲にしか権利が及ばない。

(四)(1) 本件第一商標は、二連に連なる山、そのすそ野に広がる畑、及びその畑の麓に立ち並ぶ洋館風の建物の図柄を背景に、右山の頂上付近に「河」の文字を縦書きに配し、山の腹と畑の境界付近に「内」なる文字を配し、右「河」及び「内」は筆記体の文字で構成され、右畑と建物との境界付近に通常の活字体で記載された「ワイン」なる文字を配し、右「河内」の「内」の文字の幅にほぼ納まる大きさで「内」の文字の下に横書き三文字の「ワイン」なる文字を配して構成されている。

(2) 本件第二商標は、本件第一商標の文字部分のみを対象としたものである。

(3) 国産ワインについて、都道府県名、市町村名、字名等の地区名、畑名又は古地名をもって産地の表示を行うことは慣行化しており、「河内」という古地名をもって産地の表示をする「河内ワイン」の表示は、産地表示としてごく一般的な表示態様であり、あるいは慣行化した表示方法である。本件登録商標中の「河内」あるいは「河内ワイン」の表示は、右の一般的なワインの産地表示態様に沿うものであり、需要者はこの表示の外観、称呼、観念のいずれの点からも単に河内産のワインとして認識し得るにすぎない。

したがって、本件登録商標と全く異なる図柄、構成をとり、「河内ワイン」の文字を使用していることのみが共通する被告標章は、本件登録商標に類似しない。

2  争点一2(普通名称)について

【被告の主張】

(一) 「河内ワイン」なる商品名称は、単に河内産のワインを意味するにすぎず、元来自他識別機能を有しない普通名称、あるいは普通名称化している表示である。

前記1【被告の主張】(四)(3)で述べたとおり、国産ワインについて古地名をもって産地の表示を行うことは慣行化しており、「河内ワイン」の表示は、産地表示としてごく一般的な表示態様であり、あるいは慣行化した表示方法である。

実際に河内地方においては、古くから複数の業者が「河内ワイン」なる商品名称でワインを製造、販売してきており、「河内ワイン」の表示はぶどうの産地として有名な河内地方産のぶどうで作られたワイン、あるいは河内地方で製造されたワインという意味で需要者の間で広く認識されている産地表示であり、何ら自他商品識別機能を有する記載ではない。

(二) したがって、商標法二六条一項により、「河内ワイン」という名称には商標権の効力は及ばない。

【原告の主張】

(一) 「河内ワイン」の標章は、金徳屋洋酒醸造元ないし金銅一が昭和五三年ころから自己の製造、販売するワインの商品名として継続的に使用するとともに、宣伝、広告活動を積極的に展開し、その名称普及に努めた結果、金徳屋洋酒醸造元のぶどう酒であるとの出所表示機能を得ることにより、商標法三条二項の適用により商標登録を得たものである。

(二) 商標法二六条一項は、使用する標章が、単に産地、販売地表示として使用された場合に適用されるのであり、当該商標が自他商品を識別するために用いる商標として使用されている場合には適用はない。

本件における被告標章は、「河内ワイン」の表示が表示の大きさにおいて最も大きく、配置において正面中央部に配置されており、商品の出所等を明示する商標としての表示であることは明白であるから、商標法二六条一項の適用はない。

3  争点一3(権利濫用)について

【被告の主張】

本件登録商標は、元来、独占的な排他権を認められるような表示ではなく、しかも原告はそのことを知っていたのであるから、本件商標権に基づいて、被告の被告標章の使用について差止請求権を行使することは、権利濫用として許されない。

【原告の主張】

争う。

二  争点二(不正競争防止法に基づく請求)について

1  争点二1(著名性、周知性)について

【原告の主張】

原告が事業を承継した金徳屋洋酒醸造元は、昭和五三年ころより「河内ワイン」の名称を付したぶどう酒の製造、販売を開始しており、特に、昭和五七年から平成七年に至るまでの間に、「河内ワイン」について、テレビ、ラジオといったメディアを通じ、総額五〇〇〇万円にも及ぶ宣伝、広告を積極的に展開した結果、「河内ワイン」の名称が金徳屋洋酒醸造元ないし金銅一の製造、販売にかかるぶどう酒商品を表示する名称として、全国的に知られるようになった。したがって、「河内ワイン」の商品表示は、遅くとも平成二年ころには、ワイン醸造業界では、大阪府羽曳野市の金徳屋洋酒醸造元ないし金銅一が醸造、販売しているものであることは、著名ないし周知であった。

原告は、金徳屋洋酒醸造元の事業を承継したことにより、「河内ワイン」という商品表示が取得していた周知性も承継した。

【被告の主張】

否認ないし争う。

前記一1【被告の主張】(一)、(二)で述べたとおり、「河内ワイン」という表示が原告の出所を示す商品表示として、著名性、周知性を取得したものということはできない。

2  争点二2(誤認混同)について

【原告の主張】

一1【原告の主張】(二)、(三)と同じ。

【被告の主張】

一1【被告の主張】(四)と同じ。

三  争点三(損害)について

【原告の主張】

被告は、包装容器に「河内ワイン」の標章を付したワインを平成二年以降販売し、その売り上げは二億一〇〇〇万円を下らない。被告の営業利益は、年平均九〇〇万円である。

右利益額は原告の損害と推定される。

原告は、過去三年分の損害として、二七〇〇万円を請求する。

【被告の主張】

争う。

被告が包装容器に被告標章を付しているのは、被告が販売するワインのうちのごく一部にすぎない。

第五  当裁判所の判断

一  争点一1について

1  本件第一商標の構成は、別紙第一商標目録記載のとおり、二連に連なる山を全面に配し、その中腹から麓にかけて畑を、麓には洋館風の建物を配した背景図形と「河内ワイン」の文字からなり、「河内ワイン」の文字は、中央に毛筆体風にデザイン化された「河内」の二文字を大きく縦書きに配し、その下方に、「河内」の文字の幅とほぼ等しい範囲に、「河内」の文字よりも小さいゴシック体の「ワイン」の三文字を等間隔に横書きに配してなるものであり、本件第二商標の構成は、別紙第二商標目録記載のとおり、本件第一商標の文字部分のみを対象としたものである。

2  原告は、本件登録商標の類似の範囲は、その態様を問わず、「河内ワイン」の文字を使用したものすべてに及ぶと主張するので、まず、この点について検討する。

(一) 「河内」とは、大阪府南東部地域の旧国名であり、現在も同地域一体を指す呼称として使用されているものであること、「ワイン」とは、ぶどう酒を指すものであることは、当裁判所に顕著な事実である。

乙第三号証、第四号証の一ないし四、第五ないし第七号証によれば、河内地方の生駒山地、金剛山地の山麓一帯である大阪府柏原市、羽曳野市周辺は古くからぶどうの産地として有名であり、昭和の初めころからぶどう酒造りが行われている地域であることが認められる。

そうすると、「河内ワイン」の語に接した需要者は、特段の事情のない限り、右名称から、河内地方で産出したぶどうを原料として製造されたぶどう酒、または、河内地方で製造されたぶどう酒を想起するものと認められる。

(二) 前掲乙第四号証の}ないし四に加え、甲第一一号証ないし第二一号証、検甲第一、第二号証、乙第八ないし第二〇号証、第二四号証、第二七ないし第二九号証、第三一号証、第三四号証の一、二、検乙第一ないし第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、カタシモワインフード株式会社は、昭和五三年三月に大阪道頓堀にある中座において上演された「河内ワイン」と題する演劇の会場で、包装容器に「KING SELBY/河内ワイン」との標章を付したワインを販売し、以降、同社は今日まで右標章を付したワインの製造、販売をしていること、蝶矢洋酒醸造株式会社は昭和五三年八月ころから河内地方で収穫したぶどうを用いて醸造したワインに「河内ワイン」との標章を付して販売を開始し、少なくとも平成六年ころまでは右名称のワインの製造、販売を継続していたこと、同じく昭和五三年八月ころ、金徳屋洋酒醸造元も包装容器に「河内ワイン」との標章を付したワインの販売を開始し、その営業を承継した原告は今日まで同標章を付したワインの製造、販売を継続していること、被告は遅くとも昭和六〇年一〇月ころには、包装容器に「河内飛鳥」の標章を付したワインを販売し、また、遅くとも平成三年一月ころには包装容器に「河内ワイン」の標章を付したワインを販売しており、平成九年ころまでは右標章を付したワインの製造、販売を継続し、その後は「河内産ワイン」の標章を付して製造、販売していること、時期は明らかではないが、株式会社神田屋も「河内産ワイン」の標章を付したワインを販売していること、河内地方に存在するワイン製造、販売業者は右五社であることが認められる。

(三) 前掲乙第一九号証によれば、昭和六〇年九月一〇日発行の「世界のワイン&チーズ事典」には、金徳屋洋酒醸造元の製造、販売にかかる「河内ワイン」、カタシモワインフード株式会社の製造、販売にかかる「KING SEL BY河内ワイン」、蝶矢洋酒醸造株式会社の製造、販売にかかる「河内ワイン」及び「河内産わいん」、被告の製造、販売にかかる「河内飛鳥」が並列して掲載されていることが認められ、また、前掲乙第四号証の一ないし四によれば、平成三年一月二一日発行の書籍「世界のワイン<5>」には、被告の製造、販売にかかる「河内ワイン」、蝶矢洋酒醸造株式会社の製造、販売にかかる「河内ワイン」、金徳屋洋酒醸造元の製造、販売にかかる「河内ワイン」、カタシモワインフード株式会社の製造、販売にかかる「キングセルビー河内ワイン」が並列して掲載されていることが認められる。

(四) そして、前掲甲第一六号証、第二一号証、乙第八号証、第二七号証、検乙第一六、第一七号証に加え、乙第二二号証及び第二六号証によれば、昭和五三年七月一四日発行の「サンケイ新聞」、昭和五八年八月八日発行の「食料醸界通信」、昭和五八年一二月二九日にNHKテレビが放送した「ニュースワイド」、昭和五九年二月五日に関西テレビが放送した「ホットタイム一〇時」、昭和五九年二月一一日にNHKテレビが放送した「飛鳥への道」、昭和五九年一〇月八日発行の「日本経済新聞」、昭和五九年一〇月二五日に大阪テレビが放送した「まいどワイド三〇分」、昭和六〇年九月発行の雑誌「ザ・淀川」、平成四年一〇月二八日に朝日テレビが放送した「ニュースリポート」、平成五年九月一一月発行の「毎日新聞」、平成五年}〇月一九日にNHKテレビが放送した「おはよう日本」、平成九年一一月一八日発行の「読売新聞」において、「河内ワイン」の名称が、河内地方で産出するぶどうを原料として製造されたワインを指す一般的な名称として、あるいは少なくとも河内地方に存する複数のワイン製造業者が製造、販売するワインの総称として使用されていることが認められる。

(五) 右(一)ないし(四)に認定した事実によれば、本件第一商標及び本件第二商標中の「河内ワイン」の文字(その称呼及び観念)は、河内地方で産出したぶどうから作られたぶどう酒又は河内地方で醸造されたぶどう酒を指す普通名称ないし産地表示あるいはそのような商品の内容を説明的に記述したものであって、この文字部分は自他商品識別機能を有しないものと認められるから、この文字部分を本件登録商標の要部ということはできない。

(六) 原告は、本件登録商標の「河内ワイン」の文字は、使用による特別顕著性が認められて商標法三条二項により登録となったものであり、原告の商品の出所を示す表示として周知であると主張する。

右主張について検討すると、甲第三号証、乙第一号証、第三三号証、第三五号証、第三九号証及び第四一号証の四によれば、本件商標権の登録手続において、出願人である金銅一は、「河内ワイン」の商標は昭和四八年当時から金徳屋洋酒醸造元金銅一のみが使用しているものであり、他の業者は「河内ワイン」をブランドとしているものが皆無であること、蝶矢洋酒醸造株式会社は金徳屋洋酒醸造元が使用許諾しているものであって、「河内ワイン」の出所は金徳屋洋酒醸造元金銅一であることが認識されていることなどを前提として主張、立証活動をしていたこと、本件第一商標権については、平成二年一〇月四日審決において、本件第一商標が使用人の永年にわたる継続使用により自他商品の識別機能を有するに至っていると判断され、拒絶査定を取り消して登録すべきものとされたものであり、本件第二商標権についても、平成九年二月二六日審決において、拒絶査定を取り消して、本件第一商標と連合する商標として登録すべきものとされたことが認められる。しかし、前記(二)ないし(四)に認定したところから明らかなように、金徳屋洋酒醸造元が「河内ワイン」の商標を使用し始めたのは昭和五三年八月ころであり、本件第一商標権の出願前から、カタシモワインフード株式会社は包装容器に「KING SELBY/河内ワイン」の標章を付したワインを製造、販売しており、また、本件第一商標権出願後間もない時期から、金徳屋洋酒醸造元のほか蝶矢洋酒醸造株式会社が包装容器に「河内ワイン」の標章を付したワインを販売していたのであり、本件第一商標の登録時にも、蝶矢洋酒醸造株式会社及びカタシモワインフード株式会社は包装容器に右各標章を付したワインの販売を継続していたほか、被告も包装容器に「河内ワイン」の文字が含まれる被告標章を付したワインの販売を開始していたものである。

そして、乙第三四号証の一、二によれば、「河内ワイン」の名称は、昭和五三年に河内地方のワインメーカーが地場産業の育成を行うために共通の名称を採用したものであり、蝶矢洋酒醸造株式会社は何ら金徳屋洋酒醸造元から許諾を受けたり、ロイヤリティーを払ったりする立場になく、またそのような事実もないことが認められる。

そうすると、金銅一が本件商標権の出願手続の中で主張している事実は、右の本件証拠から認められる各事実に照らしても誤りがあり、むしろ、河内地方に存するすべてのワイン製造、販売業者が「河内ワイン」ないし「河内」の入った名称をワインに使用していたものと認められるから、「河内ワイン」の文字自体が、本件商標権についての前記各審決時において、金徳屋洋酒醸造元の使用継続により自他商品識別機能を有するに至っていなかったものと認められる。

右認定を覆すに足りる証拠はない。

3(一)  本件登録商標の構成中、「河内ワイン」の文字部分については、前記2で判断したとおり、自他商品識別機能を有せず、本件登録商標の要部ということはできないので、本件登録商標が自他商品識別機能を有するとしても、本件第一商標については、「河内ワイン」の文字の配置態様、外形及び背景の図柄等の別紙第一商標目録記載の全体の構成が一体となって、また、本件第二商標については、「河内ワイン」の文字の具体的配置態様、外観等からなる別紙第二商標目録記載の全体の構成が一体となって、初めて自他商品識別機能を有するに至っているものというべきである。

(二)  これに対し、被告標章の構成は、別紙被告標章目録記載のとおり、「河内ワイン」の文字を明朝体で同書体、同大、等間隔に一連の横書きにして中央に配し、その下に筆記体でデザイン化した「Kawachi Wine」の文字を横書きに配したものである。

これらの文字のうち、「河内ワイン」の文字部分は自他商品識別力を有しないことは先述のとおりであり、「Kawachi Wine」の文字部分のうち「Kawachi」の部分は「かわち」と称呼され、「Wine」の部分は「わいん」と称呼されることは明らかであるから、中央に記載されている「河内ワイン」の表記と合わせれば、「Kawachi Wine」の文字は「河内ワイン」が想起されるのであって、これ自体では自他商品識別機能を有するものでないことは「河内ワイン」の文字部分と同様である。したがって、「河内ワイン」あるいは「Kawachi Wine」の文字部分を被告標章の要部ということはできない。

(三)  そこで、本件登録商標と被告標章を対比すると、本件登録商標と被告標章とは、本件登録商標の「河内ワイン」の文字部分と被告標章の「河内ワイン」及び「Kawachi Wine」の文字部分の称呼、観念が同一であるのみであり、その他に共通する部分はないと認められる。

そして、本件登録商標中の「河内ワイン」の文字部分は、前記2で認定判断したとおり、自他商品識別機能が認められない部分であるから、右の部分を共通するだけで、他に共通する部分がない本件登録商標と被告標章が類似するものということはできない。

4  したがって、商標権に基づく原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。なお、原告は、本訴請求の趣旨において、被告に対し、「河内ワイン」の商標の使用差止を求めて請求しているが、具体的な標章として前記の被告標章以外のものを被告が現に使用し、又はそのおそれがあることの主張立証はないのみならず、単に「河内ワイン」という文字からなる商標一般についても、前記説示によれば、本件商標権に基づいて差止めを請求できないことが明らかである。

二  争点二1について

1  原告は、遅くとも平成二年までには、「河内ワイン」の商標が金徳屋洋酒醸造元の商品の出所を示すものとして著名あるいは周知であったと主張するが、前記一2で認定判断したとおり、「河内ワイン」の文字は、河内地方で産出したぶどうから作られたぶどう酒又は河内地方で醸造されたぶどう酒を指す普通名称ないし産地表示あるいはそのような商品の内容を説明的に記述したものと認められ、それ自体では自他商品識別機能を有するものではないこと、また、「河内ワイン」の名称は、昭和五三年から、河内地方に存在する五社のワイン製造業者のうち、金徳屋洋酒醸造元のほか、カタシモワインフード株式会社、蝶矢洋酒醸造株式会社においても使用されてきたものであること、雑誌、新聞、テレビ放送等で、「河内ワイン」の名称を、河内地方で産出するぶどうを原料として製造されたワインを指す一般的な名称として、あるいは少なくとも河内地方に存する複数のワイン製造業者が販売するワインの総称として使用していることからすると、金徳屋洋酒醸造元が「河内ワイン」の表示を使用したことにより、平成二年当時はもとより、現時点においても、右表示が金徳屋洋酒醸造元の商品の出所を示す識別標識として著名あるいは周知であると認めることはできない。

右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  したがって、その余の点を判断するまでもなく、不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がない。

三  よって、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一一月一〇日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)

第一目録

<省略>

第二目録

<省略>

被告標章目録

<省略>

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